10年程前、ある大学の産婦人科の教授が書いた冊子を見ました。そこには、更年期障害には漢方薬がよく効くと書かれていました。勧められていた漢方薬は、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸でした。そこで、何人かの患者さんに使ってみましたが、ほとんど効果は見られませんでした。以後、これらの薬を使うことはほとんどなくなりました。
中医学も書物の中に、男女の更年期障害について書かれていました。そこに書かれていた漢方薬は、全く違うものでした。中医学の治療方針は、明解です。しかたがないことですが、人は年を重ねると臓器が徐々に弱っていきます。そこで、陰と陽のバランスが重要になってきます。陰陽のバランスが保たれながら徐々に弱って行けば、体の不調は起きないと考えます。更年期障害は腎との関係が深い病気なので、腎陰と腎陽のバランスが壊れていることになります。中医学では、この陰と陽の乱れを正していく治療を行います。本来は、1人1人に合った生薬を調合して漢方薬を作って行きます。しかし、日本の臨床の場ではなかなか難しいので、よりふさわしいエキス製剤を選び、それらを組み合わせて治療しても同じような効果があります。当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸のどれかを選んで治療しても十分な効果が得られなかった訳が分かったような気がしています。